■ 太陽光発電: 自動追従システム再考 (0) ~ 概要と基本計算式 ~

 2008年12月に「太陽光発電:自動追従システムはお得か」と題して、発電パネルを太陽の方向に自動追従(追尾)させる次の2方式の発電量をパネル固定方式と比較した結果を示しました。

(1)水平面内自動追従方式 (水平面内旋回のみ、首振りなし)
    パネルの方位角のみを太陽の方向に追従させる。
(2)完全自動追従方式    (水平面内旋回 + 上下首振り)
    パネルの傾斜角、方位角を太陽の方向に追従させる(パネル面 ⊥ 太陽光)。

 そこでは地上に到達する太陽の輻射エネルギーは一定と仮定し、パネル面に対する太陽光の入射角度の変化のみに着目しました。

 しかし、地球の大気圏外で受け取る太陽からの輻射エネルギー(太陽定数)は 1.367kW/m2 で一定ですが、太陽光は大気を通過中に散乱や吸収を受けるため、地表面に届く光は弱くなります。
 その程度は大気の状態、厚さによって大きく影響され、朝夕の時間帯では大気の層が厚いために大きく減衰します。

 ここでは、各地の実際の水平面全天日射量の観測値に基づき、自動追従システムの発電量について改めて検討します。

(0) 概要と基本計算式
(1) 日毎の比較アプリ
(2) 月毎・年間の比較
(3) その他

 今回は(0) 概要と基本計算式です。 (1)以降は今後順次紹介する予定です。
概要

  ● 対象地点
 次の15府県を除く32の都道府県庁所在地。
  茨城県、千葉県、埼玉県、神奈川県、石川県、岐阜県、滋賀県、三重県
  京都府、和歌山県、兵庫県、岡山県、鳥取県、山口県、徳島県
  ● 対象期間
  2013年1月 ~ 12月
  ● 設置費用 対 効果
・パネル価格が下落しており、自動追従システムの効果が薄れている?
・パネルの設置スペースに限りがある場合には有効か?
・通常は南向きに、屋根傾斜角も30度程度のことが多く、自動追従の効果はそれ程大きくはない?
Erbs モデルによる斜面日射量の計算式

  太陽光発電システムの発電量を推定するためには、傾斜面が受ける日射量「斜面日射量」を知る必要がある。
  ここでは、水平面全天日射量の観測値からErbsモデルにより斜面日射量を推定する。
  発電量は斜面日射量に比例するので、斜面日射量の比が発電量の比となる。

  ● 記号
 H : 水平面全天日射量
 Hb : 水平面直達日射量
 Hd : 水平面散乱日射量
 H0 : 大気外水平面日射量
 α : 太陽高度角
 θa : パネルの傾斜角
 θz : 天頂角 (=90°- α)
 θ : パネルへの入射角
 p : アルベド(地表の反射率=0.2、入射光エネルギに対する反射光エネルギの比)
  ● 大気外水平面日射量: H0
 地球の大気圏外で受け取る太陽からの輻射エネルギー:1.367kW/m2(太陽定数)の水平面成分:
  H0 = 1.367 (r'/r)^2 sin(α)   (注)^ : べき乗を示す。
  r/r' = 1/[ 1.000110 + 0.034221cos(ωJ) + 0.001280sin(ωJ) + 0.000719cos(2ωJ) + 0.000077sin(2ωJ)]^0.5
 ここで、ω = 2π/365、J: 元日からの通算日数 + 0.5

 ・太陽と地球の平均距離:1.496×108km
 ・太陽光は大気を通過中に散乱や吸収を受けるので大気圏外の値よりも地表面に届く光は弱くなる。
  この減衰量は大気の状態や太陽光の波長によって大きく影響を受ける。
  ● 直散分離
 水平面全天日射量を直達成分(水平面直達日射量)と散乱成分(水平面散乱日射量)に分離する。
  H = Hb + Hd

 ・H/H0 < 0.22 のとき
   Hd/H = 1.0 - 0.09(H/H0)
 ・0.22 < H/H0 ≦ 0.80 のとき
   Hd/H = 0.9511 - 0.1604(H/H0) + 4.388(H/H0)^2 - 16.638(H/H0)^3 + 12.366(H/H0)^4
 ・H/H0 > 0.80 のとき
   Hd/H = 0.165
  ● 斜面日射量(時間積算斜面日射量)の計算
・斜面直達日射量(直接法モデル)
  hb = Hb x cosθ/cosθz
・斜面反射日射量(均一反射モデル)
  hr = H x p x (1 - cosθa) / 2
・斜面散乱日射量(等方性モデル)
  hd = Hd x (1 + cosθa) / 2

斜面日射量はこれらの和で
  h = hb + hr + hd
これを、1日にわたって合計する。
  ● 太陽の高度角
太陽赤緯: δ(太陽光線と地球の赤道面との角度、±23°27'の範囲で変化) [単位: 度]
  δ = 0.33281 - 22.984 cos(ωJ ) - 0.34990 cos(2ωJ ) - 0.13980cos(3ωJ )
           + 3.7872 sin(ωJ ) + 0.03250 sin(2ωJ ) + 0.07187 sin(3ωJ )
  ここで、
    ω = 2π/365、閏年は ω = 2π/366、J: 元日からの通算日数 + 0.5
   (本プログラムでは閏年は考慮していない)

均時差: e(天球上を一定な速さで動くと考えた平均太陽と、実際の太陽との移動の差、17分未満) [単位: 時間]
  e = 0.0072 cos(ωJ ) - 0.0528 cos(2ωJ ) - 0.0012 cos(3ωJ )
    - 0.1229 sin(ωJ ) - 0.1565 sin(2ωJ ) - 0.0041 sin(3ωJ )

時角: t [単位: 時間]
  T = Ts + (θ - 135)/15 + e
  t = 15T - 180
  ここで、
   Ts: 時刻(中央標準時)
   θ: 東経
   φ: 北緯

高度(仰角): α
  α = asin(sin(φ)sin(δ) + cos(φ)cos(δ)cos(t))

方位角: A(北 = 0, 東 = 90, 南 = 180, 西 = 270°)
  sinA = cos(δ)sin(t)/cos(α)
  cosA = (sin(α)sin(φ) - sin(δ))/cos(α)/cos(φ)
  A = atan2(sinA, cosA) + π

日の出時刻: t1 [単位: 時]
日の入時刻: t2 [単位: 時]
  t = acos(-tan(δ)tan(φ))
  T1 = (-t + 180)/15
  t1 = T1 - (θ - 135)/15 - e

  T2 = ( t + 180)/15
  t2 = T2 - (θ - 135)/15 - e

南中時刻: tm(太陽が真南に来る時刻) [単位: 時]
  tm = (t1 + t2)/2
  or
  tm = 12 - (θ - 135)/15 - e
 均時差 e の値がプラスの場合には南中時刻が平均より早く、値がマイナスの場合には平均より遅くなります。

(注)Erbs モデルは D.G.Erbsらが1982年、下記で発表した計算モデル。
  Erbs, D.G., S.A.Klein, J.A.Duffie:
    Estimation of the Diffuse Radiation Fraction for Hourly, Daily and Monthly Average Global Radiation, Solar Energy, Vol.28, No.4, pp.293-302 (1982).
自動追従の計算式

  ● 水平面内自動追従方式
 パネルの方位を太陽の方位角に合わせる。
  ● 完全自動追従方式
 パネル面を太陽光に常に垂直になるように制御する。

自動追従システム再考(1) ~ 日毎の発電量比較 ~
自動追従システム再考(2) ~ 月毎の発電量比較 ~

ホーム