■ 車の数学(30): 車の停止距離の計算(踏込時間の考慮、JavaScript版)

 ドライバーが危険を感じて急ブレーキが必要と判断した時点から、実際に車が停止するまでの距離は
 (1)ブレーキが必要と判断した時点から、ブレーキが効き始める時点までの空走距離
 (2)ブレーキが効き始めた時点から、停止するまでの制動距離
の和として求められます。

 前者の空走時間(人の反応時間+踏替時間)は、平均的には0.6~0.7秒程度とされています。 また、後者の制動距離は車の速度、タイヤと路面の間の摩擦係数によって大きく変化します。

 以前紹介したアプリ「車の停止距離の計算」では、ブレーキペダルを踏み込んでブレーキが効き始めるまでの時間(踏込時間、 0.1~0.2秒程度)を簡易的に空走時間に含めていましたが、ここではJIS D0106「自動車ブレーキ用語(種類,力学及び現象)」に従って、この間の減速を考慮し、制動時間の一部として扱っています。

 本アプリでは車の速度・摩擦係数・空走時間・踏込時間などを指定して、停止距離(空走距離+制動距離)を計算し、あわせて走行距離に対する速度の変化の状況をグラフィック表示します。
 また、坂道(上り坂、下り坂)での停止距離も算出することができます。

 条件を設定して「Start」ボタンを押してください。

速度(km/h)  摩擦係数空走時間(秒)踏込時間(秒)坂傾斜角(度) 切替点表示
  

(注0)坂の傾斜角は上り坂はプラス値、下り坂はマイナス値で入力する。
(注1)マウスホイールによる表示速度の増減、X軸/V軸方向拡大縮小が可能。 Resetボタンで初期値に戻る。
  ・原点右上で操作すると表示速度の増減
  ・X軸下のスペースで操作するとX軸方向の拡大縮小
  ・V軸(縦軸)左のスペースで操作するとV軸方向の拡大縮小

(注2)制動距離の欄に表示される値について
  ・左上部:踏込時間に対する距離、左下部:その後の距離(主制動距離)、 右側:両者の合計(制動距離)

(注3)「空走時間」は次の各時間の合計です。
  ・ブレーキが必要と判断した時点から、アクセルペダルから足を動かすまでの時間(反射時間 0.4~0.5秒)
  ・ブレーキペダルに足を乗せるまでの時間(踏替え時間 0.2秒)

 速度欄に"0"を入力して「Start」ボタンを押すと、指定されている空走時間のもとで摩擦係数をパラメータにして速度:V(km/h)と停止距離:D(m)の関係を示す線図が表示されます。 この線図で低速域(一般道での速度域)、高速域(高速道での速度域)に2本の黒い直線が引かれていますが、これらは通常(μ=0.5~0.8)の停止距離の概算に利用できます。
 ・低速域では D = 0.6 x V   (例)V = 50km/h ---> D = 0.6 x 50 = 30 m
 ・高速域では D = V      (例)V = 100km/h ---> D = 100 m
 これが必要な車間距離の根拠です。
 緑色の直線は D = V - 15 の線で、これも低速域での必要車間距離の目安としてよく用いられます。


 ★ 参考までに、本アプリで使用している計算式とその誘導過程を示す。

 ● 踏込時間を無視した場合
[ 停止距離の計算式 ]
・速度をv0 (m/s)、 摩擦係数をμ、反応時間をta (s)、重力加速度をg (m/s2) とする。

・空走時間 t0 = ta
 空走距離 d0 = v0・t0
・制動時間 t1 = v0/(μg)
 制動距離 d1 = v02/(2μg)  ・・・(踏込時間内の減速については別途考慮)
・停止時間 t2 = t0 + t1
 停止距離 d2 = d0 + d1

[ 制動時間・制動距離の計算式の誘導 ]
・車の質量をm(kg)とし、進行方向にX軸をとって時刻t(s)における車の位置をx(m)とする。
・次の運動方程式が成立する。
  mx" = -μmg    ここで、" は位置xの時刻tに関する2回微分(加速度)
・これを解くと、
  x" = -μg
  x' = -μgt + v0
  x = -μgt2/2 + v0・t
・制動時間 t1は x'(速度)= 0 より、
  t1 = v0/(μg)
・制動距離 d1はこのt1をxの式に代入して、
  d1 = -μg[v0/(μg)]2/2 + v0・v0/(μg)
    = v02/(2μg)  
 尚、この式は車の運動エネルギー(mv02/2)が摩擦力による仕事(μmg・d1)に変換されることから、
  mv02/2 = μmg・d1
 より求めることもできる。
 ● 踏込時間内の減速を考慮した場合
 ・ブレーキの踏込時間tf内に減速度が直線的に増加して、主制動時間内の減速度(μg=一定)に達すると仮定すると、
  踏込時間内の速度低下量Δvは減速度線図(緑色)の3角形部分の面積より、
   Δv = μg・tf /2
 ・踏込開始時からの時間経過をtとすると、時刻 t における速度 v は
   v = v0 - Δv・(t / tf)2
 ・従って、この間の走行距離:df は
   df = 0tf v dt
     = v0・tf - Δv・tf /3
 ・次に、減速度一定(=μg)区間の走行距離:dm は、区間開始時の速度が (v0 - Δv) であることから、
   dm =  (v0 - Δv)2/(2μg)
 ・以上により、踏込時間を考慮した制動距離は
   d1f = df + dm

   chartF.jpg
 ● 坂道(斜面)での制動時間
  上り坂(θ> 0)や下り坂(θ< 0)における車の制動距離について考える。
 ・次の運動方程式が成立する。
   mx" = -μmg・cosθ - mg・sinθ
     = -(μ・cosθ + sinθ)・mg
 ・この式は、平坦な道路上の運動方程式(mx" = -μmg)における摩擦係数μを
   μ -> μ'  = μ・cosθ + sinθ
  に変更したもである。
 ・従って、坂道での制動計算は傾斜角θを本来の摩擦係数μに加味した「μ'」を使用することで行うことができる。

 ・又、重力の斜面方向の分力と摩擦力の関係から、
   μ”  = μ・cosθ - sinθ
  の値が負になる場合:
  ・上り坂では 一旦停止する(速度0になる)が、その後下方に滑り落ちる。
  ・下り坂では 停止できない(速度0にならない)

   chartK.jpg

車の停止距離と関連JIS
車の停止距離に及ぼす踏込時間の影響
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