■ 車の数学(29): 車の停止距離に及ぼす踏込時間の影響

 ブレーキの踏込時間(ブレーキペダルに足を乗せ,ペダルストロークが出始めてから指定された位置に到達するまでの時間)を考慮した車の停止距離について考えます。

 車の停止距離は、
 (1)空走距離: ブレーキが必要と判断した時点から、ブレーキが効き始める時点までの走行距離
 (2)制動距離: ブレーキが効き始めた時点から、停止するまでの走行距離

の和として求められますが、ここでは制動距離について検討しています。

● 踏込時間を考慮しない制動距離:d1(m)の計算式

  d1 = v02/(2μg)
 または、
  d1 = V2/(254μ)

  ここで、
   v0: 車の速度(m/s)
   V: 車の速度(km/h)
   μ : タイヤと路面間の摩擦係数
   g: 重力加速度 = 9.8(m/s2)

 この式はブレーキを踏んだ瞬間にブレーキが完全に効いて、以後は減速度一定で速度が直線的に下降し、停止(速度0)するまでの距離として導き出されます(下図の破線の速度線図)。

   chartF.jpg

● 踏込時間を考慮した制動距離:d1f (m)の計算式

 ブレーキの踏込時間をtf (s)とし、この間の減速度が直線的に増加して、主制動時間内の減速度(一定=μg)に達すると仮定すると、踏込時間内の速度低下量Δvは減速度線図(緑色)の3角形部分の面積より、
   Δv = μg・tf /2
 踏込開始時からの時間経過をt(s)とすると、時刻 t における速度 v は
   v = v0 - Δv・(t / tf)2
となります。
 従って、この間の走行距離:df
   df = 0tf v dt
     = v0・tf - Δv・tf /3
 次に、減速度一定(=μg)区間の走行距離:dm は、区間開始時の速度が (v0 - Δv) であることから、
   dm = (v0 - Δv)2/(2μg)

 以上により、踏込時間を考慮した制動距離は
   d1f = df + dm
となります。

 車の速度、摩擦係数、踏込時間の関係を表にすると、大略以下のようになります。
 踏込時間の増大とともに、制動距離は増加しますが、車速40km/h以上ではその影響は10%程度以下です。
   chartFV.jpg

車の停止距離と関連JIS
車の停止距離の計算(JavaScript版)
ホーム