■ 車の数学(28): 車の停止距離と関連JIS
車の停止距離について、関連するJISを参照しながら記しています。
● 関連のJIS
車のブレーキに関するJISには次のようなものがあります。
・JIS D0106:自動車ブレーキ用語(種類,力学及び現象)
・JIS D0107:自動車ブレーキ用語(部品)
・JIS D0210:自動車ブレーキ試験方法通則
ここでは、これらの中から車の停止距離に関係する話題を1つ紹介します。
● 車の停止距離とは
車の停止距離は空走距離と制動距離の和として求められます。
(1)空走距離: ブレーキが必要と判断した時点から、ブレーキが効き始める時点までの走行距離
(2)制動距離: ブレーキが効き始めた時点から、停止するまでの走行距離
空走距離は人の反応時間+踏替時間(空走時間、平均的には0.7~0.8秒程度)と車の速度の積として求めら、制動距離は車の速度、タイヤと路面の間の摩擦係数によって変化します。
● 車の停止距離の計算式
空走距離:d0(m)の計算式は次のとおりです。
d0 = v0・t0
ここで、
v0: 車の速度(m/s)
t0: 空走時間(s)
制動距離:d1(m)の計算式は次のとおりです。
d1 = v02/(2μg)
または、
d1 = V2/(254μ)
ここで、
v0: 車の速度(m/s)
V: 車の速度(km/h)
μ : タイヤと路面間の摩擦係数
g: 重力加速度(m/s2) = 9.8
この式はブレーキを踏んだ瞬間にブレーキが完全に効いて、以後は減速度一定で速度が直線的に下降し、停止(速度0)するまでの距離として導き出されます。
● JISにおける車の停止距離に関する規定
しかし、実際にはブレーキペダルを踏んでからブレーキが完全に効くまでには若干の時間を要します(踏込時間)。
JIS D0106では、空走時間、実制動時間、主制動時間、空走距離、制動距離などについて次のように規定しています。
・反応時間 : ブレーキの必要を認めてからアクセルペダル又は床面から足を離すまでの時間
・踏替時間 : アクセルペダル又は床面から足を離してから,ブレーキペダルに触れるまでの時間
・空走時間 : ブレーキの必要を認めてから減速度が発生するまでの時間
空走時間 = 反応時間 + 踏替時間
・実制動時間: 減速度が発生し始めてから車が停止するまでの時間
・踏込時間 : ブレーキペダルに足を乗せ,ペダルストロークが出始めてから指定された位置に到達するまでの時間
・主制動時間: 減速度が安定値を保っている時間
主制動時間 = 実制動時間 - 踏込時間
・空走距離 : 空走時間内の走行距離
・制動距離 : 実制動時間内の走行距離
JISのこの定義によれば、制動距離は実制動時間、即ち減速度が発生し始めてから車が停止するまでの走行距離であり、踏込時間に対する走行距離もこれに含まれることになります。
● 踏込時間が停止距離に及ぼす影響
それでは、ブレーキの踏込時間とそれに対する走行距離はどの程度の値になるのでしょうか。
JIS D0210によれば、
スパイク制動(特別に強力な制動操作のこと)で,ペダル踏力<->時間特性が次の規定を満足すること。
・ペダル踏力立上り勾配は 10kN/s を目標とし,5〜20kN/s の範囲内にあること
・ペダル踏力は上記こう配の範囲内で,1kN に達することを目標
・ペダル踏力最大値は全域にわたり1.2kN を超えてはならない
乗用車は通常油圧ブレーキであり、上の基準でいくと踏込時間は0.1秒程度で、60km/h走行時では距離で2m弱となりますが、踏込時間を無視した場合の制動距離(μ=0.7と仮定)約20mに対する割合は10%程度です。
一方、大型車ではエアブレーキが主流で、この形式のブレーキ(複合ブレーキを含む)では,ブレーキペダルが全ストロークするまでの時間が0.2秒以内にペダルを踏み込むこととなっていますので、距離で4m程度です。
踏込時間による制動距離の増加は、上図で示す部分であり、(車速v0x踏込時間)より少ないことがわかります。
以上により、踏込時間の停止距離に及ぼす影響は余り大きくはなく、これを無視しても実用上は問題ないと考えられます。
(注1)
・1kgf=9.8N
・車には通常、ブレーキブースタが装備されていて、実際の踏力は大幅に軽減されている。
・0.1~0.2秒程度の踏込時間であれば、これを簡易的に空走時間に入れて停止距離を算出することもできる。
以前紹介した「車の停止距離の計算」ではそのようにしている。
・上で示した停止距離の計算式は、図中の「実制動時間 t1'」をベースにしたものである。
(注2)踏込時間内の速度低下量
踏込時間をtfとし、この間の減速度が直線的に増加して、主制動時間内の減速度(一定):μgに達すると仮定すると、
踏込時間内の速度低下量Δvは減速度線図の3角形部分の面積より、
Δv = μg・tf/2
μ=0.7、tf=0.1sとすると、
Δv = 0.7*9.8*0.1/2 = 0.343 m/s = 1.23km/h
となり、速度低下は1km/hとわずかである。
ブレーキ性能試験結果一覧(国交省資料)
車の停止距離の計算(JavaScript版)
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