■ 車の数学(27): 車の重量と停止距離の関係
車の停止距離については以前、簡単なアプリとそこで使用されている計算式を紹介しました。
停止距離はドライバーが危険を感じて急ブレーキが必要と判断した時点から、実際に車が停止するまでの距離であり、
(1)ブレーキが必要と判断した時点から、ブレーキが効き始める時点までの空走距離
(2)ブレーキが効き始めた時点から、停止するまでの制動距離
の和として求められます。
前者の空走時間(人の反応時間)は、平均的には0.7~0.8秒程度とされ、空走距離は単純にこの空走時間と車の速度の積として求められます。
後者の制動距離は車の速度、タイヤと路面の間の摩擦係数によって大きく変化します。
制動距離:d1(m)の計算式は次のとおりです。
d1 = v02 / (2μg)
ここで、
v0: 車の速度(m/s)
μ : タイヤと路面間の摩擦係数
g: 重力加速度(m/s2) = 9.8
この式からもわかるように、制動距離は車の重量(質量)に無関係であり、軽自動車、普通車、大型車で差はありません。 しかし、車の停止距離について紹介している数々のWebサイトを見ていると、上式を掲げているにもかかわらず、制動距離は重量に比例すると書いてあるものも見かけます。
上式には、ブレーキをかけてから完全に効くまでの過渡的な動きは考慮されておらず(下記注)、また最近の車にはABS(Anti-Lock Braking System)が装備されており、停止時の実際の挙動は非常に複雑ですが、実用的にはこの式に基づいた停止距離が各種信頼できる機関から出されています(警察庁の資料、交通安全協会資料、法律事務所ほか)。
警察庁の資料「速度による停止距離」には時速と停止距離の関係を示す図表があり、停止距離の値を読み取ると、反応時間=1秒、摩擦係数μ=0.7としているようです。
また、国交省の「自動車総合安全情報」にはブレーキ性能試験結果一覧があり、車種(重量:約700kg~1,800kg)による制動距離のバラツキがほとんどないことを示しています(乾燥した路面とぬれた路面双方について)。
(1例)時速100km、乾燥路面での制動距離: 日産 モコ / 42.7m、 トヨタ エスティマ / 41.7m
なお、車の速度を時速 V(km/h)とすると、
v0 = V * 1000 / (60*60) (m/s)
従って、制動距離:d1(m)は、
d1 = v02/(2μg)
= [ V * 1000 / (60*60) ]2/(2μ*9.8)
= V2/(2μ*9.8*3.6*3.6)
∴ d1 ≒ V2 / (254*μ)
となり、 多くのサイトではこの最後の式を掲げています。
(注)ブレーキの効き初めから完全に効くまでの時間(踏込時間)については別途まとめる予定である。
速度による停止距離(警察庁資料)
ブレーキ性能試験結果一覧(国交省資料)
車の停止距離の計算(JavaScript版)
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